当選
2025-08-25 11:12:00
少し前にマネージャーから「決められそうな役がありまして、撮影が×日なのですが問題ありませんか?」というメールがきました。スケジュール帳を見たところ、そこには『ジャッキー・チェン舞台挨拶』と書かれていました。ああ、ジャッキー。私はスマホを手にすると「まったく問題ありません!よろしくお願いします!」と即座に返信をしました。フラームきっての非売れっ子女優の私が、数少ない仕事のチャンスをみすみす逃すなど、絶対にあってはならないこと。ジャッキーは大好きだけど、生きている限りいつかどこかで出逢えるはず。香港に行けば二階建てバスにジャッキーが傘でぶら下がっているはず。まあ実のところ、この時点では舞台挨拶も抽選結果待ちだったのですけどね。それでも能天気な私は、空席になったらジャッキーに申し訳ないよなあ、誰に譲ってあげようかなあ、などと仕事もジャッキーも決まっていない中でいらぬ心配をしておりました。しかしその数日後にマネージャーから「他の方に決まりました」という就活でいうところのお祈りメールが届きました。芸能生活28年間でこんなことは100回以上経験しているのですが、それでもその都度とことん落ち込みます。この絶望に慣れることは決してありません。ああ、これでジャッキーまでダメだったら、繭子、もう立っていられない。そうして迎えた抽選日、さすがに神様もそこまでは無慈悲ではないようで見事に当選しておりました。ただここで「私ってついてる!」と喜べないのは、ジャッキーの舞台挨拶が11回もあるからです。実のところ、ハズれた人などいないのでは?という疑念を抱いています。何はともあれ会いに行くぜ、ジャッキー!
以前ほどではありませんが、ここ最近も懸賞等を相変わらず楽しんでいる私でありますが(第213回『春はすぐそこ』参照)、少し前には渋谷区の保養施設である二の平荘の抽選に当たりました。こちらは今年の7月にリニューアルオープンした宿泊施設でありまして、渋谷区民はことさらお得に泊まれるという素敵な場所であります。オアシスのチケットよりも取れないと噂の二の平荘ですからね、当選メールが届いた時は飛び跳ねて喜びましたよ。渋谷区民の2親等までは区民と同じ料金ということで、暑さの厳しいなか母と二人、ロマンスカーと箱根登山鉄道を乗り継いで行ってまいりました。私は箱根登山鉄道に乗るのが初めてだったもので、スイッチバッグのたびに運転士と車掌が入れ替わる姿を興味深く眺めながら「2人が双子だったら面白いなあ」などと考えていました。子どもの頃、沿道でマラソンの応援をしていたところ、少し前に走り去って行った選手がまた目の前にやって来て、軽くパニックになったことがあります。ご存じ、宗兄弟です。その宗兄弟が運転士と車掌だったら入れ替わりもさらに早かろう。そんなことを考えているうちに列車は彫刻の森駅に到着。そこから歩いてすぐの二の平荘は自治体の保養施設とは思えぬ綺麗さでした。ロビーにある大きな窓からは明星ヶ岳をはじめとした箱根の山々が見渡せます。まずは館内を散策したのですが、A棟B棟C棟が渡り廊下で少々複雑に繋がっており、私が西村京太郎であったならこの構造を使ったトリックで『二の平荘殺人事件』を書けるのにと思いました。渋谷区に怒られそうだけど。温泉に入る前に、母の希望で卓球に挑戦。30回を目標にラリーを続けようと約束したのに、母がちょいちょいスマッシュ的なものをはさんでくるのでなかなか続きません。「ねえ、普通に打ってよ」「普通に打ってるわよ」そう言いながらも打ちやすい球がくるとチャンスとばかりに目の色を変えてスマッシュを打ってくる母。なんなの、この人。結局、母のせいで最高ラリー数は26回に終わりました。そしてほどよく汗をかいたあとはゆっくりと温泉に入り、楽しみにしていた夕食の時間です。温泉宿の食事というのは量が多くて食べきれないというのが常でありますが、こちらはそのあたりはほど良く、ただ次回泊まる時はオプションでもう1品追加したいなという具合でした。とうもろこしご飯が特に美味しかったです。飲みきれなかったワインを部屋に持って帰り、ああでもないこうでもないとお喋りをして早々に就寝。二人合わせて121歳ですから夜更かしなんていたしません。そして翌日の朝、一人で温泉に行った時のことです。露天風呂に入っていると、突然目の前の木々が音を立てて揺れました。びくっと身体を強張らせてそちらに目を向けると、なんと朝もやの中から鹿の親子が現れたのです。ゆっくりと歩く彼らの姿があまりにも美しく、しばし言葉を失う私。彼らを驚かさないように小声で「鹿ですよ!鹿がいますよ!」と同じく露天風呂に入っていた金髪のお姉さんに教えました。お姉さんも「わあ!本当だ!」と感動の様子。去り際、立ち止まってこちらを見た小鹿に、私たちは「うわあ、可愛いなあ」とおっぱい丸出しで手を振りました。そしてしばし余韻に浸ってから「クマじゃなくて良かったですね」「本当ですね」と笑い合いました。二の平荘、次はぜひとも紅葉のシーズンに当選しますように。
2025.8.25 配信
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。
オフィシャルサイト→FLaMme official website