税金とは│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#194

税金とは

2022-05-09 14:24:00

 こどもの日、仕事の帰り道に菖蒲を買いました。それを見て、一緒に働いている20代の女の子が「ネギですか?」と私に訊きました。「いや、菖蒲だよ。今日はこどもの日だから菖蒲湯に入ろうと思って」「ショーブユ?何ですか、それ?」一人暮らし。小さな浴槽。それでも菖蒲湯に入ろうという私からすると、菖蒲湯を知らない人がいることに驚きました。ここは年上として、きちんと教えてあげることが大切、と彼女に説明をしたところ「へー、おまじないって感じなんですね」というポップな答えが返ってきました。確かに無病息災を願う、邪気を祓うという点で合ってはいるのですが、古来からの風習をおまじないと言うのは何だかしっくりきません。それにしても菖蒲湯を知らない人がいるとは。こういう時には、季節ごとの風習を大切にしながら育ててもらったことを有難く思います。おかげで今年も菖蒲湯につかり、健やかに逞しく成長することができそうです。ちなみに柏餅は鈴懸さんのものをいただきました。美味。上品。柏の葉がものすごく立派。
 そんな風にこどもの日をフルで満喫した私ですが、最近、こどもが書いた言葉に恐ろしくなったことがありました。それはハチ公バスの車内でのこと。毎年、渋谷間税会がやっている『税の標語』の優秀作品が車内に掲載されているのですが、それがいつも違和感と恐怖のオンパレードなのです。どれもこれも、小学生がこんなこと考えるか!?という絵空事ばかり。納税を賞賛し、崇め、薦めるという気味の悪い納税賛歌。毎年これを目にするたびに、戦前の日本みたいだなと思ってしまいます。厳しい思想統制、言語統制のなかでこどもたちを教育し、戦争へと突き進んでいく、みたいな。もちろん納税は国民の義務ですから、大切なことであります。私だってしっかり納めていますよ。納めて納めて、納めるたびにムカついていますよ。ほとんどの大人がそうですよ。だから、こどもたちには納税の素晴らしさを教えるのではなく、その税金がどのように使われているのかを学ばせ、おかしいと思ったことはおかしいと声にあげることが大切だと教えた方が良いと思うのです。もうおかしいことだらけなんですから!マスクをたくさん配るとか、赤坂議員宿舎の破格の家賃がさらに値下がりするだとか、山間部に誰も使わない橋をかけるとか、数えたらきりがありません。そしてこれは、おかしいというよりも胸がザワザワしたことなのですが、日本政府はウクライナに3億ドル(およそ370億円)の資金支援を表明しました。これらは医療や食料の支援に充てられるとのことですが、全ての使い道を把握するのは到底不可能なこと。戦闘に使われる可能性もゼロではないでしょう。そしたら、私は人を殺すために一生懸命働いて税金を納めているのかなと悲しくなってしまったのです。そんな大袈裟な、と思われそうですが、毎日ニュースを見るたびに胸が痛いです。ウクライナ人であろうとロシア人であろうと、奪われてよい命などないのだから。1日でも早い平和を願ってやみません。
 税金のことを考えるとどうしても不平不満ばかりになってしまうのですが、もちろんたくさんの恩恵にも与っています。公園、道路、ゴミ収集、図書館、そしてつい先日受けてきた3回目のワクチン接種。受けるのがだいぶ遅くなってしまったのは、2回目の副反応が本当に辛かったからです。またあの苦しみを味わうのかと思うと、なかなか決断できず先延ばしにしていました。重い腰をあげたのは、ただただハワイに行きたいという理由だけ。予定を立てているわけではありませんが、いつでも行ける状態にしておきたい。それだけです。2回目同様の副反応を想定して、前日にはスポーツドリンク、ゼリー状の栄養補助食品、冷えピタなどを買い揃えました。そして会場に向かう前、頑張る自分にご褒美を、とクリスピードーナツに立ち寄りました。『ドーナツキング』というドーナツでアメリカンドリームを叶えたカンボジア人のドキュメンタリーを見てから、もうドーナツが食べたくて仕方がなかった私。2個食べ終えたところで満足できずに、もう1個購入。そして3個食べ終えたところで、もう1個購入。だって副反応に耐える自分へのご褒美だもの。そして4個食べ終えたところで…、さすがにここで我慢です。理性を働かせなければ10個は食べていたと思います。そしていざ接種会場へ。問診の医師からも「3回目も副反応があると思いますので、ゆっくり休んで下さい」とのことでした。そのため、覚悟を決めて副反応の襲来を待っていたのですが、どうしたことか、待てど暮らせど何もない。結局、僅かな倦怠感はあったものの、発熱もなく、ただただドーナツをバカ食いしたという事実だけが残った3回目のワクチン接種でありました。

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2022.5.9 配信

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website