山くるみvsわたし│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#193

山くるみvsわたし

2022-04-22 11:07:00

 ここ最近、私をてこずらせているものがあります。それは山くるみです。少し前に銀座にある『おいしい山形プラザ』で購入したのですが、無知な私はくるみに様々な種類があることも知らず「間食にナッツ!それはつまり美!」と胸をときめかせました。その昔『キャビンアテンダント刑事』というスペシャルドラマを撮影した際のことです。楽屋での待ち時間、お局CA役の私は、ピチピチCA役の女優さんたちがお喋りに興じる様子を少し離れたところで見ていました。深田恭子さん、瀧本美織さん、水原希子さん、佐々木希さん、すみれさん、高橋メアリージュンさん、松島花さん。かれこれ8年前ですからね、もうみんな元気、元気。きゃっぴきゃぴですよ。みんな、すこぶる楽しそう。誰かのスマホを見ては「かわいい~」の連発です。心の中で、いやいや、あなたたちの可愛さが最強ですよと思いながら、現場に来る前に買ってきた新聞を広げるおばさんCA。と、その時「西山さん、良かったら召し上がります?」とピチピチCAの1人である吹石一恵さんが笑顔でやって来ました。彼女の手元には様々なナッツが入ったタッパーがありました。スナックで出てくるミックスナッツとは何だかタイプが違う。柿の種も入っていない。さすが女優さんだわ。私は「わー、ありがとう」と言って、一番大きなくるみをいただきました。相変わらずの欲張りっぷり。福山雅治さんと結婚できる、できないはこのあたりで決まっていたのでしょうね。そもそも私は出逢ってもいませんが。くるみにはそんな思い出があり、食べれば吹石一恵さんのように美しくて心優しい人間になれるような気がするのです。そのくるみが袋いっぱいに、しかもすでに焼いて半分に割ってあるではないですか。これは買いでしょと、大好きなふうき豆と一緒に購入いたしました。しかし冒頭にも書いたように、くるみには様々な種類があり、普段私たちがよく食べているものはペルシャグルミと呼ばれる外国産の大きな実のもの。私が購入した日本の原生種の山くるみは、風味は良いものの小さくてとにかく硬いのです。爪楊枝でほじくると先が折れてしまうほど。粉砕された実は部屋じゅうに飛びまくるし、そもそも実自体が小さいので1個ほじくったところでリスでもおなかいっぱいにならないだろうという量なのです。何か方法はないかとネットで調べたところ、山くるみ専用のほじくり器がありましたが、けっこうなお値段。山くるみをもう二度と買わないであろうことを考えると手を出せません。そうかといって食べ物を捨てることなんてできない。何か代替品はないだろうかと家で考えた結果、リッパーを使うことにしました。あの、縫い目をほどいたりするやつですね。おかげでほじくる作業はだいぶ楽になったのですが、裁縫道具を食べることに使うというのは、少々後ろめたい。もともとは裁縫学校だった女子校を卒業した私としては、ますます後ろめたい。そんな風に感じたのは、つい最近、その学び舎に久方ぶりに足を踏み入れたからかもしれません。
 卒業して22年、昔と変わらぬキャンパスは懐かしさよりも女子大生たちの若さに圧倒されっぱなしでドキドキしてしまいました。学食で気だるそうにしているだけで可愛いって、どういうことかしら。自分もこんな感じだったのだろうか。もう遠い昔すぎてわかりません。この日の目的は購買部で売られている校章の刺繍が入ったタオルハンカチ。仲良くしているフランス語のクラスメイトのマダムが母校の先輩だと知り、プレゼントしたいなと思いました。お揃いで自分の分も購入し、校内をふらふらしていると『社会で活躍する卒業生』なる展示コーナーを発見しました。アナウンサー、アスリートを支える管理栄養士、国際開発コンサルタント。そのなかに中学高校の6年間、バトントワリング部で共に汗を流した仲間の姿を発見。大手食品メーカーでフードプランナーとして活躍する彼女のインタビュー記事には、今の仕事をする上で学生時代に学んだことがどのように生きているか、そして二度の産休、育休を経ての仕事との両立などが書かれていました。それを読んだ途端、卒業して22年間、いったい私は何をしていたのだろうと改めて絶望しました。山くるみをリッパーでほじくる休日を過ごす44歳。本当に何をしているんだ、私は。展示コーナーの端に『こうなってはいけません』と私のマグショットが貼られていても文句は言えません。季節は春。この大量の山くるみがなくなる前に、動き出さなくてはいけません。

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2022.4.25 配信

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website