雨に唄えば│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#188

雨に唄えば

2022-02-14 15:26:00

 前回のコラムで『SINGIN’ IN THE RAIN 雨に唄えば』の公演が中止になったというオミクロンに対する恨みつらみを書き綴りましたが一転!なんと追加公演を観に行くことができました!本来であれば2020年秋に予定されていたこの公演、その時はコロナによって全日程が中止になるという悲しい結末に終わりました。その経験があったので、このオミクロンの状況下では今回もその悪夢が繰り返されるのだろうと諦めていたのです。しかし、たくさんの人たちの努力によって2月の公演は開催されるというではないですか!しかも追加公演まで!ただ、1月の公演が中止になった時点でホームページのチェックを怠っていたために、そのことに気づいたのはチケットの販売が再開されてからだいぶ過ぎてからでした。普段からSNSはたまに眺める程度なので、私はリアルタイムの情報に疎いです。今年になってからはネットに触れられるのは1日1時間までと自分に制限をかけているのでなおさら。情報弱者にならぬよう気をつけなくてはと思いつつも、溢れる無駄な情報に心を乱されたくない気持ちの方が強いので己に制限を課しました。ネットで何を目にしてもブレない強靭な精神力を持てれば一番良いのですが、鈴木大拙の本で100回寝落ちしている今の私には少々厳しい。そんな状況下でふと『雨に唄えば』のことを思い出せたのは本当にラッキーでした。そのきっかけとなったのは、これまたミュージカルでありまして、先日足を運んだ『ラマンチャの男』だったのです。こちらのコラムでも以前書きましたが(第185回『落とし物にはご注意ください』参照)、昨年観に行った舞台『パ・ラパパンパン』で松たか子さんの魅力に心を鷲掴みにされた私、松本白鸚さんのファイナル公演となる2月のラマンチャは絶対に見に行くぞ!ということで、チケット発売日にはクリックの鬼と化しました。作品自体を観るのは初めてだったのですが、2年前に実質私の引退公演となったバレエの発表会で『ドン・キホーテ』を踊ったこともありますし、何よりも主題歌の『Man of La Mancha』は高校時代、バトントワリング部で全国大会に出場するために何度も練習した曲であります。バトントワリングは技術とともに笑顔も大事。コーチと先輩に「笑え!バトンを落とすな!笑え!列を乱すな!笑え!もっと足をあげろ!笑え!西山!1人だけズレてんだよ!」という絶対に笑えない状況下で罵倒されるなか、常に流れていたのがこの曲でした。30年経った今も振り付けを憶えているって恐ろしいです。しかし舞台を観ている最中はそんな苦しい思い出は忘れ、ひたすら松たか子さんの魅力と松本白鸚さんの迫力に圧倒されっぱなしなのでした。そして最後のカーテンコール、鳴りやまぬ拍手のなか、父と娘は舞台の上でがっちりと握手を交わしました。娘の頼もしい姿、父親の誇らしい姿。もう涙腺大崩壊。ああ、私も親孝行をしなければと思いました。そして、そういえば『雨に唄えば』ってどうなったのかな?と調べたこの日の夜に、公演再開の旨を知ったのです。1月のチケットが払い戻しになって母に悔しい思いの丈をぶつけた際、母はホームページの動画を見て「すごく面白そう。こんな素敵な舞台が見られなかったのは残念だったわね」と言っていました。なので追加公演は母と一緒に行くことに。「ありがとう!楽しみ!」ととても喜んでいた母に「お礼は松たか子さんに言ってください」という意味不明な言葉を返したのでした。そして当日、1月に8列目で観られるはずだった席は後ろから2列目。それでも充分に楽しめた『雨に唄えば』って本当にすごい!こんなに幸せな気持ちになれる舞台って本当にすごい!キャストとスタッフの皆さんは、この公演を実現させるため入国の目処すら立っていないというのにロンドンで稽古をした上に、2週間の自主隔離をしてくれたとのこと。本当に感謝しかありません。主役のドン・ロックウッドを2012年から演じ続けているアダム・クーパ―にとっては今回が最後のドン。公演後に行われたトークショーでは感極まって言葉をつまらせる彼がいました。そして最後に観客をバックに記念撮影を行い、彼はその写真を自身のインスタグラムにあげていました。それはごく普通のことなのですが、母は「あら、舟木さんみたいに送ってくれないのね」とやや不満顔。そうなんです。以前、母と一緒に行った新橋演舞場『舟木一夫特別公演』でもそのようにみんなで写真を撮りました。そして何と舟木さんは、その写真をプリントして引きのばして台紙に貼った上、送料全負担で全てのお客さんに送ってくれたという強者。ここにきて松本白鸚、アダム・クーパ―を飛び越えての舟木一夫最強説。またそちらにも母を連れて行ってあげたいなと思いつつ、やはり公演中止の心配のない日々が再び訪れることを願ってやみません。

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2022.2.14 配信

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website