流れを変える│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#152

流れを変える

2020-08-10 00:38:00

 久しぶりにモンゴメリの『赤毛のアン』を読んでいます。この作品をアニメで見ていた幼い頃、マシュウはおじいさんだとばかり思っていたのですが、小説には「マシュウも年をとってきたし、もう六十歳ですからね」と書いてあり、そんなに若かったのか!と驚きました。なんと郷ひろみさんよりも年下です。一度、ヒロミGOのコンサートに行ったことがありますがキレッキレのターンとジャパーンに大興奮。気づけば拳をつきあげて「億千万!億千万!」と一緒に歌っていました。それはさておき、この『赤毛のアン』の風景描写は何度読んでも素晴らしい。いつの間にか心はプリンス・エドワード島へと飛んでいきます。緑の木々、風に揺れる色とりどりの花、きらきらと輝く湖。ああ、アンでなくても魅了されてしまう。その一方、私が暮らす街ときたら。まあ汚いのなんのって。『赤毛のアン』を読むまではさほど気にならなかったのですが、アヴォンリー村の美しさに触れている今、街の汚さにうんざりするようになりました。日課である早朝ウォーキングをしていると、東京はゴミで溢れているなあと感じます。空き缶やペットボトルが道端に平然と投げ捨てられており、最近ではとにかくマスクがたくさん!ゴミ収集日にはカラスがゴミをまき散らし、目も当てられない状態です。その上、週末の道端ではどこかしらに吐しゃ物があるという地獄。ついでに道端で寝ている若者もよく見かけます。これはゴミではないけれど、ある意味ゴミのようなものですね。ウォーキングのルートが渋谷界隈というのも原因の一つでありましょうが、それにしても汚すぎるぜ東京。はあ。今すぐプリンス・エドワード島に行って美しい風景に癒され、女子力を上げたいものです。そのためには何が必要かといえば、まずはパスポート。これがなければ日本から出ることはできません。もちろん今の状況で海外に行くというのはありえないのですが、先日、パスポートを更新してきました。
 これまでは、結婚して姓が変わる可能性を信じて5年有効のものにしていたのですが、今回は10年のものを申請しました。これは決して結婚をあきらめたわけではなく、流れを変えていこうという作戦です。フランスW杯予選のイラン戦、流れを変えるために一気に2人を交代させたところ、カズと交代した城彰二は同点ゴールを決めました。そして日本は延長戦の末に勝利し、初めてのW杯出場を決めたのです。つまり10年有効のパスポートに変えたことで、私も42歳までかかってしまった延長戦に勝利し、人生のW杯に出場が決まるということです。ここにくるまでは長い道のりでした。私が初めてパスポートをとったのは1984年、6歳の時です。その当時のパスポート写真は、まさかまさかの家族写真。母、姉、私が仲良く写っています。昔はそれで大丈夫だったのです。写真もぺたりと貼り付けるタイプで、ちょっと賢い小学生であれば簡単に偽造できるのではというクオリティ。今ではICチップは入っているわ、葛飾北斎の絵が刷られているわ、えらい違いですね。2冊目からは1人だけのパスポートになったのですが、今と違って身長が書いてありました。中学1年生の夏で147cm。昔は小さかったのです。そして所持人自著には「MAYUKO NISHIYaMA」と1文字だけ小文字で書かれています。これを書いた時に「はっ!間違えた!」と筆を止めた私に向かって「サインは書き直せませんよ~。そのままで~す」とバカにしたように言い放った旅券課のおじさんの顔は今でも鮮明に覚えています。絶対に許さない。と、ここまでは子ども時代のパスポートでありまして次の3冊目からが、私の旅の歴史が本格的に始まります。今回、出国&帰国スタンプを全てチェックしてこれまでの渡航回数を数えてみたところ思いのほか少なくて49回でした。しかし1回の渡航で数ヶ国をまわることもあったので、総日数にしてみると421日。これまでの人生において1年以上を外国で過ごしているというのは自分でも意外でした。そしてさらに意外だったのは、これまで1番多く訪れた国は絶対にフランスだと思っていたのですが、なんとアメリカでした。これはかなりショック。自分は街角のカフェで赤ワインを片手にサルトルの実存主義について熱く議論をするフランス的ブルジョワジーだと思っていたら、ストリップバーでバドワイザーを片手にロッキー最高!ボーンインザUSA!イエス、ウィーキャン!なアメリカ的パリピだったという事実。42歳にして己の真の姿を知りました。しかし、その姿も今後の旅によって変わっていくかもしれません。新しいパスポートにスタンプが押されるのはいつになるかわかりませんが、記念すべき50回目の渡航となります。さあ、どこへ行こうかな。ちなみに今、一番行きたいのはハワイです。穏やかな海を見ながらマイタイを飲んでぼけーっとしたい。つまり、結局はアメリカ。まだしばらくパリピな私のままのようです。

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2020.8.10 配信

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website