ラ・クック│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#093

ラ・クック

2018-02-26 11:32:00

 まだまだ寒い日が続いておりますが、みなさんいかがお過ごしですか?人と会うたびに「寒いですね」と女子高生の時には考えられなかった挨拶がいつの間にか身にしみついた40歳、西山繭子は寒さに耐性がない(というか根性がない)ので本当につらいです。ただ、外が寒いというのは許せます。だって冬だもの。私がつらいのは家の中が寒いことなのです。「私の家、本当に寒くて」と言うと大抵の人は「うちも、うちも」となるのですが、私の家はちょっと尋常じゃないレベル。この前なんて、朝起きたら家の中なのに氷がはっていたんですよ!よく凍死しなかったな、私。その昔『光の雨』という映画を極寒の雪山で撮影していた時、夜中の待ち時間にうつらうつらしていると、共演の裕木奈江さんが「寝たら死ぬよ」とボソッと耳元で囁いて、私を三途の川の手前から引き戻してくれたことがあります。一人暮らしの今、そんな風に私を救ってくれる人はいないので気をつけなくてはいけません。都内の自宅で凍死なんて怪事件になってしまう。コナンくんが家に来てしまう。家の中で氷がはっていたのは、台所の窓枠でした。私の家は、築20年越えのマンションなのですが、とにかく結露がハンパないのです。風邪予防のため就寝時にはスチーム加湿器をつけているので、寝室の窓なんて朝起きるとびっしゃびしゃ。私の冬の朝はいつも結露をセームタオルで拭くことから始まります。拭いては絞り、拭いては絞りを繰り返していると、私の人生において結露を拭く時間というのはトータルしたらいかほどか、などと考えます。毎朝5分、一か月で150分、一冬で750分、それが今後30年続いたとして・・・。ああ、私は儚い人生のうちの15日間を不眠不休飲まず食わずで結露を拭いているのか!そんな風に私の人生から貴重な時間を奪うその結露が、台所の窓枠で凍っていたのです。今、私が『将来の夢』というタイトルの作品を文集に載せるのなら、間違いなく「結露しない家に住みたいです」と書くでしょう。そんなことを話していると「じゃあ何か暖房器具を買えば?」となるのですが、小さな賃貸マンションでは石油ストーブもガスファンヒーターも禁止であります。契約書には書いていないけど、たぶん暖炉を作るのもダメでしょう。オイルヒーターは電気代が高いのでアウト。まあ、こんな風に寒さ対策を考えているうちに春がくるというパターンを繰り返しているんですけどね。そもそも家に物が増えるのがイヤなので、スチーム加湿器だって相当悩んで購入したほど。しかし、そんな我が家にここ最近、新しいオオモノがやってきました。それは以前から欲しかった高級ガスコンロです!

 それまで使っていたガスコンロはリサイクルショップで購入したものでした。中古とはいえピカピカだったガスコンロは、初めての一人暮らしで大活躍してくれました。しかしここ最近、魚焼きグリルの調子が悪くて何を焼いても焦げてしまう。料理を焦がすって、まるで女子力が無い人みたいで心外だわ。と真っ黒になったトーストの焦げた部分をナイフでガリガリそぎ落とす日々。結露に時間を奪われる上に、さらに焦げまでが私の人生を侵食していくなんて耐えられない。もうそんな悲しい日々にはもうサヨナラよ、と私は事務所の社長に誕生日プレゼントとしてガスコンロをおねだりしました。かねてから狙っていたパロマのグランドシェフシリーズ。私の家にはスペースの問題上、オーブンがありません。オーブンがあったら、お休みの日はクッキーを焼いて過ごせるのになあと何度思ったことでしょう。そんな私の夢を叶えてくれるのが新しいガスコンロなのでありました。ラ・クックという専用の調理器具を使うと魚焼きグリルでなんとケーキまで焼けちゃうというすごい奴。しかしそのすごい機能がある分、めちゃめちゃ重い。いったん事務所に届いたものをスタッフの男の子が家まで届けてくれたのですが、元自衛隊という経歴を持つ屈強な彼が「けっこう重いですよ」と言っていたほど。その時は、とはいえまあ大丈夫だろうと「玄関までで大丈夫よ。あとは自分でやるから」と彼を帰しました。しかしいざ持ち上げようとしたところ、その重さに腰がぴきっと小さく音をたてました。これはこのままいくと完全に腰をやってしまう。さてどうしたものか、えーっとこれはまずは、と正座してガスコンロをそろそろと膝にのせてみる私。太ももにずっしりと感じるガスコンロの重み。台所で一人、江戸時代の拷問スタイル。しばし考えたのち、この体勢からは絶対に持ち上げられないと気づき、そこからは孤軍奮闘、悪戦苦闘。かなりの時間をかけたのち、少し腰を痛めつつも無事に設置終了。早速、事務所の社長に「これで新しい料理にたくさん挑戦できます!ありがとうございます!」とメールをしましたが、今はまだ台所が寒すぎてなかなか立つ気になりません。女子力絶賛冬眠中。ああ、早く春がこないかなあ。そしたら私の女子力もきっと目覚めるはず。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website