アラフォーじゃなくてフォー│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

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西山繭子

#091

アラフォーじゃなくてフォー

2018-01-22 13:54:00

 この連載が更新される時、私は40歳になっています。原稿を書いている今は、まだピッチピチの39歳です。以前は早く40歳になりたいなと思っていました。なぜなら39歳だと、この世の終わり感がすごくて、年齢を言うたびに同情にも似た空気が漂っていたからです。でも40歳だと40代の中では一番若手なので、スーフリ的オールラウンドバカサークルに勧誘される女子大生のようなイメージがあり、さっさと40歳になりたいなあと思っていました。しかし、ここひと月ほどは、眠りにつく前にいつも「こんなはずじゃなかった」と暗闇の中で絶望しています。これは、私が寝ているベッドのせいもあるかもしれません。私が今寝ているベッドは10年ほど前に某格安通販雑誌で見つけて購入したものです。その時に探していたベッドの条件というのが「シングル、収納あり、白」だったのですが、その全ての条件を兼ね備えていたのがこのベッドだったのです。条件がぴったりな物があったことは嬉しかったのですが、ベッドの名前が『姫ベッド』だったことが気になりました。通販雑誌では、私が購入した白ではなく、ピンクバージョンをメインに売っていたので、そのネーミングだったのでしょうが、ここ最近は「もう40歳になろうというのに、姫ベッドに寝ているおばさんって、いったい…」と思ってしまいます。しかもベッドというのは名ばかりで、ほぼ箱といっても過言ではないでしょう。送られてきた木材を自分で組み立てて作った姫ベッドは明らかに耐久性に欠けていて、私が寝るだけでも不安定。稀勢の里が横になったら、あっという間に崩壊してしまうでしょう。しかもベッドの上には、マットではなく布団を敷いているのですが、この布団とういうのがまたすごくて、私が物心ついた時にはすで家にあったので40年近く使っているアンティークなのです。ところどころにツギハギがしてあって、西山家では『刑務所布団』と呼ばれていました。しかしこの布団、真綿で作られたものなので、これほど長く使っていてもお日様に干すとふっくらとします。日本の技術って素晴らしいなあ。しかし『姫ベッド』の上に『刑務所布団』を敷いて寝ているという事実は変わらず、その事実が私をますます「こんなはずじゃなかった」という気持ちにさせるのです。

 私が子どもの頃に想像していた40歳は、もっともっと大人でした。ドラマ『ハウス・オブ・カード』に影響されて、駒場東大前にある定食屋で友人に「私、やっと目指すべきものがわかったの。それはアメリカ大統領よ」と宣言して「お願いだから、大きな声で変なこと言わないで。早く食べて」と言われたりする大人ではありませんでした。何をどこで間違えたのだろうと自分でも不思議で仕方ありません。自分で言うのもナンですが、一応フラーム所属の女優ですからね、そこそこの容姿はあると思っています。それに健康だし、一般常識も兼ね備えているのに、どこでどうなった?自分と同年代の女性が子どもの手をひきながら、片手にバーキンなんか持っていたりすると、どうして自分はあちら側に行けなかったのだろうと考えてしまいます。悶々と考えていたところ、通っている歯医者の先生に「どんな40代にしたいかビジョンを明確にしてみたら?」とアドバイスを受けました。先生は「はい、これお誕生日プレゼント」と言って、ポリデントを2つくれました。ちなみに私、まだ入れ歯ではございません。就寝時に矯正用のマウスピースをしているので、それに使うためのポリデントです。うーん、どんな40代にしたいかなあ。お正月に家族と会った時、「今年は40歳になるし、もう自分のことだけ考えてわがままに生きようと思うの」と高らかに宣言したところ、母、姉、義兄がサンドイッチマンの富澤さんの「ちょっと何言ってるかわからない」みたいな雰囲気になっていたのが心外でした。しかし人生一度きりの40代!ここはやはりわがままにいこう!愛のままにわがままに!僕は君だけを傷つけない!では、これまでの偉人は40歳の時に何を成し遂げたのだろうかと参考に調べてみたところ、科学者オイラーは、40歳の時にオイラーの公式を発表したそうです。ほほう……。ふむふむ……。って、オイラーって誰? アムラーじゃなくて? だめだ、立派すぎて参考にならない。ああ、前途多難な40代の幕開け。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website