ぼんやりさん│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#075

ぼんやりさん

2017-05-22 12:11:00

 マンチェスターから帰国して一か月以上経ち、ようやく会った母にお土産を渡しつつ学校での思い出話などをしていたところ「そんなに色んな国から生徒が来てたのに、アメリカ人は一人もいなかったの?」と真顔で訊かれました。お母さん、私が通っていたのは英語学校なんですよ……。ほぼ毎日曇り空というマンチェスターの小さな学校で、サンシャイン溢れるカリフォルニア出身のアメリカ人が英語を勉強していたら何事かと思うよ。しかし思い出話をしつつも、もう一か月が経っているので私の中では、もはや幻のようなマンチェスターライフ。今はもう普段通りの「ああ、しんどい。長生きなんて絶対にしたくない」という日々に戻っています。唯一の楽しみといえば、7月末に参加する予定の『お金を払えば誰でも出られるバレエコンクール』の練習ぐらいかなあ。本当はそんな名前のコンクールじゃないけどね。私は昨年初めて出場し『白鳥の湖』から黒鳥のバリエーションを踊ったのですが(第57回『ナタリー!』参照)、今年は『海賊』からガムザッティのバリエーションに挑戦。このチョイスも、昨年同様もちろん衣装から。黒鳥はチュチュだったので今回はジョーゼットを着たいというバレエの先生も呆れる理由。でもいいの。プロじゃないし、お金払って出るんだし、習い事なんだから楽しまないと!そう、これはあくまでも習い事なのです。なので先生から「西山さんがイギリスに行っている間に、三人辞めちゃったの。人間関係でモメて…」と聞いた時には心底驚きました。そして悲しかった。私はみんなのことが好きだったから。あれ?もしかして原因、私ですか?だったらウケる!

 誰しもが少なからず悩んでいるであろう人間関係。私と違って、きちんと社会性のあるお仕事をされている方、はたまた勉学に励んでいる学生は、苦手でも付き合わなくてはいけない場合があるでしょうから、どんなに大変かと思います。私が人間関係にそれほど悩んでいないのは、仕事仲間が流動的というのもありますが、常に人と距離をおいて接していることが大きいように思います。もちろん「そんなのわかってんだよ!でも普通の人間は無理なんだよ!」と意見もございましょうが、まあ旦那、ちょいと聞いてくださいな。私が人と距離をおくようになったのは、小学校低学年の時。当時、交換日記をしていた女の子が、私が他の女の子と一緒に帰るのを見て「どうしてあの子と仲良くするの?私、あの子のこと嫌いだって言ったよね?」と言い出しました。小学生の女子にはありがちですね。その時に「ああ、誰かと仲良くするのって面倒くさい」と思いました。それから私は人とつるむことをしなくなりました。人ってつるむと気持ちが大きくなるじゃないですか?昨今のハロウィンやサッカー日本代表の試合後の渋谷が良い例で、一人だったらしないことを、つるんだ途端にやりだす人間の性。これがお祭り騒ぎならまだしも、世界中で起きている争いごとを見ていても、やはりそこにはつるむという概念が蠢いているんですよね。以前、ニュースで、ドイツの小さな町で移民排斥を訴える人々がデモをしている様子を見ました。つるむことで力を得たと勘違いした男の一人が、アラブ系のお店の窓ガラスを鉄パイプで叩き割りました。するとそれに続いて、若い少女がさらにそのガラスに石を投げたのです。スキニーパンツにパーカーを着た普通の少女は、歓声を起こすデモ隊に両手をあげて応えていました。それを見て、私は改めて人がつるむことの危うさを痛感しました。小学生の交換日記から話が飛躍しすぎだと言われそうですが、根底は一緒で、そして私はつるまないって平和でよろしいと常に思っているのです。つるまないから自分と違う意見の人に対して「へえ、そうなんだ」と悪く言えば無関心、良く言えば寛容になれます。まあぼんやりしてるってことですかね。私の知り合いに人の悪口ばかり言う女性がいるのですが、最近もその人が「××さんって、本当は腹黒い人だと思わない?」と言ってきました。私が「そうですか?私はわからないです」と答えると、彼女は「相変わらずぼんやりしてるよね。本当に人を見る目がないんだから」とバカにしたように笑いました。ああ、ぼんやりしてるって最高だな。人を見る目があったら、人を信じられなくなっちゃう。私はこれからも人とつるまず、そしてぼんやりさんを心がけて生きていこうと思います。だって、ぼんやりしているから三人がバレエ教室を辞めた理由が私だったことも気づかずにいられたわけでしょ?って、彼女たちが辞めた理由、違うから!たぶんだけど……。写真は撮影の合間にぼんやりしすぎて、普通のおばさんになっちゃったおばさん。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website