世界の山ちゃん│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#067

世界の山ちゃん

2017-01-23 12:46:00

 1月16日、国際非政府組織オックスファムが世界で最も裕福な8人の資産が、世界人口のうち下位50%(約36億人)の合計額とほぼ同じだという報告書を発表しました。ひゃー、ものすごい所得格差!しかし今の世の中は、金持ちがより金持ちになる仕組みになっているので、残念ながらこの格差は広がるばかり。そのうち富の格差は、女子力の格差にも繋がっていくのではなかろうか。悲しい世の中ですね。私自身、お金とは縁遠い人生を送っていますが、これまで幾度となくお金持ちに口説かれてはきました。しかしその誰にも興味がなかったので、今こうして足元を湯たんぽで温めながら原稿を書いているわけですが、その中でも特に強烈なお金持ちがおりました。その名も世界の山ちゃん。これは私が勝手につけたあだ名であって、有名手羽先店とは一切関係ございません。
世界の山ちゃんとは、とあるパーティーで知り合いました。当時、電気も水道も止められる彼氏とつきあっていた私を友人たちが「彼女って本当にダメンズ好きなんですよ~」とちゃかしていると、世界の山ちゃんは驚いたように私を見て「それはボランティアなの?」と尋ねてきました。そんなはずねえだろ・・・。「まさか。好きだから一緒にいるんですよ」と笑顔で返した私に、世界の山ちゃんは目をパチパチ。大金持ちの山ちゃんからすると、お金のない人間を好きになることが信じられなかったようです。お金持ちの意地なのか、山ちゃんはどうにか私を振り向かせたいと思ったようで、そこから怒涛の山ちゃん祭りが始まったのです。初めて山ちゃんと食事に行ったのは恵比寿のジュエル・ロブションでした。ウェイターに「彼女には一番高いシャンパンと一番高いコースを」と山ちゃん。普通、品のある人間は「一番美味しいものを」って言うよなと思いつつフルコースをオーダー。山ちゃんも同じものを頼むのかなと思ったら「昼が遅くて」とアラカルトで前菜とメインのみをオーダー。飲み物も「運転手が風邪をひいちゃって僕が運転しなきゃいけないんだ」とお水。ひょっとして山ちゃん、自分の分を払えないのでは?そんな疑問を抱きつつ、山ちゃんのスーパー金持ちトークに耳を傾けます。「芦屋の実家にはヘリポートがある」「世界中に家があってもはや数えられない」「先週、ゴミと間違えて現金二千万円を捨てちゃった」どこまでが本当かわからない話を「へえー」と受け流していると、山ちゃんは「僕は繭子ちゃんをプリティ・ウーマンみたいにしてあげたいんだ」と言いました。え?私、娼婦じゃないんですけど・・・。その日、愛車のベントレーで送ってくれた山ちゃんは「これ、たまたま車にあったからあげるよ」と自分の記事が掲載されていた雑誌『Forbes』を私にくれました。発行日を見たら一年以上前のもので、きっとトランクに何十冊も入っているんだろうなと思いました。誌面で颯爽とプライベートジェットに乗り込む山ちゃん。本当にお金持ちなんだということはわかったけれど、もうこの時点で山ちゃんは、私にとって『ウケる』存在でしかなくなっていました。山ちゃんは嘘かホントか、一年のほとんどを『ヨークシャーの貴族から買った城』か『モナコでF1が一番よく見えるマンション』で過ごしているために会う機会はさほどありませんでした。しかし誕生日やバレンタイン、クリスマス、舞台の千秋楽等々ことあるごとに日比谷花壇の薔薇100本を送ってきました。日比谷花壇の薔薇って本当に綺麗で、お部屋に飾っておくだけで女子力とってもアップします。ある時、帰国中の山ちゃんと高級中華料理店に行った際、山ちゃんは鞄から『オーラ測定器』なるものを取り出しました。プラスチックでできたおもちゃみたいな箱には体重計のような目盛りと針があり、その箱を両手ではさむとその人のオーラ指数が出るんだとか。またおかしなことを言い出したと思いながらも山ちゃんに促がされ測定してみることに。一向に動かない針を見て山ちゃんは「繭子ちゃん!このオーラのなさは癌の末期患者と同じレベルだよ!」と言って、オーラ測定器を今度は自分で。すると針はブンっと振れオーラはマックスに!「ほら、見てごらん!僕のオーラ!繭子ちゃん、僕と一緒にならなきゃ死んでしまうよ!」もう私、笑いを堪えるのに必死でした。ちなみにこの測定器でオーラがマックスになったのは、世界の山ちゃんとアントニオ猪木さんだけだそうです。
もう今では連絡をとっていない山ちゃんですが、今も世界のどこかでプリティ・ウーマンにしたい女の子のオーラを測定しているのかなあ。オーラゼロの私は、今日もこつこつ写真の金のブタ貯金箱に小銭をちゃりん。貯金箱の後ろにある絵はミロの直筆サイン入りのリトグラフです。その昔、父が買ったもの。以前「あの絵、今は私の家にあります」と父に話すと「お金に困ったら売りなさい。5億円ぐらいにはなるから」とな。世界の山ちゃんがここにもいたぜ。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website