ルート66│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#061

ルート66

2016-10-21 18:25:00

 先週、カリフォルニアから大切な友人がやって来た。Tさんという日本人のナイスガイ。半年振りの再会をアメリカンな感じでハグして喜び、おもいっきりジャパニーズな神田の居酒屋でわいわいと盛り上がりました。実は半年前、10日間ほどかけてかの有名なルート66をドライブしたのであります。といっても私は後部座席専門で、運転はもっぱらTさん。助手席にはもともとその旅のきっかけを作ってくれたSさん。いつも一人旅が多い私、10日間も誰かと一緒にいるなんて大丈夫だろうか? 私の女子力のなさに二人のナイスガイがキレやしないだろうかと心配でしたが、いざ一緒に旅をしてみるとあまりの心地良さに、帰国後、誰もいない部屋に帰ってきた私は、寂しくて本気で泣いてしまったほどでした。

 私にとっては旅でしたが、二人はお仕事。ルート66のグッズなどのライセンスに関わる仕事をしている二人は、これまでにも何度か実際に66を走りながら、現状を把握するみたいなことをしていて(最後まで私は正確な仕事内容がよくわからなかった)、今回もその任務のためのドライブでありました。以前、その話をSさんから聞いていた私は「行ってみたい!」と懇願。Sさんは「何もなくてつまらないと思いますよ」とおっしゃいましたが、何もない場所は一人ではなかなか行けないので、仕事の邪魔にならぬよう同行させていただくことになりました。ルート66はシカゴからサンタモニカを結ぶ全長3,755kmの旧国道。ジョン・スタインベックの小説『怒りの葡萄』の舞台にもなったマザー・ロード、アメリカの母なる道であります。映画『イージー・ライダー』でもおなじみですね。全行程となるとかなりの日数を要するので、私はニューメキシコ州のアルバカーキから合流させてもらいました。実は私、アメリカ本土はニューヨークとアラスカ以外行ったことがなく、アメリカ人に言わせれば「二つともアメリカじゃない」そうなので、この旅は記念すべき初USA!といった具合でありました。余談ですが、以前サッカー日本代表戦を観に行った時、斜め前に座っていた人のユニフォームの名前が『USA』で「なぜ、アメリカ?」と思っていたらEXILEのUSAさんユニでした。そのUSAに舞い降りた私、普段、立石や野毛で待ち合わせをするSさんとアルバカーキの空港で落ち合うというのは何とも奇妙な感じでありましたが、空港から街へ出るともうそこは私の知らなかった本当のアメリカなのでした。どこまでも続く広い空に赤茶けた大地、大きな通りに煌々と輝くカーネル・サンダース。私は窓にへばりついて景色を眺めていました。「本当に何もないんですよ」というSさんの言葉を耳にしながら「高校を卒業したら、あたいはこんな街におさらばするのよ。そしてブロードウェイの舞台に立つの。さよなら、ジム。あたいの初恋の人」と脳内は完全にアメリカンガール。そして車は砂埃をあげながら、モーテルにピットイン。ああモーテル!映画でよく見かける犯人が潜伏していそうなモーテル!Sさんが「こんな所で大丈夫ですか?」と心配しているのをよそに私は「ねえ、ジム。まさかあたいがあんたを追う立場になるなんて思ってもみなかった。でも、ごめんなさい。あたいが今守らなきゃいけないのは初恋の人じゃない。国家、そうアメリカなのよ」と激しく妄想。てか「あたい」はブロードウェイからのFBI? と謎は深まりますが、それほどまでにアメリカの大地というのは、私に無限のインスピレーションを与えてくれたのでした。翌日から、車はひたすら広大な台地を西へと進んで行きます。途中、全長2kmにも渡る長い貨物列車が車と平行して走る姿を見た時、それだけでも胸が熱くなったのに、窓を開けて運転手さんに「おーい!」と手を振ると、彼は手を振り返してくれただけでなく、何と貨物列車の汽笛を鳴らしてくれました。乾いた大地に響きわたる汽笛の音に、もう38歳のおばさんでさえ大興奮なのだから、これが少年だったらおしっこ漏らしてたと思います。少年じゃなくて良かった。Sさんは「何もない」と言っていたけれど、何もない場所だから出逢える景色がたくさんありました。何から何まで素晴らしい時間でしたが、ただ一つだけ、困ったことがありました。それは食事。アメリカの田舎町での食事のチョイスは、基本的にアメリカンとメキシカンの二択です。来る日も来る日も、ステーキにマッシュポテト、エンチラーダにブリトー。しかもずっと車に乗っているだけ。多くのアメリカ人はこの生活が当たり前なので、これは大袈裟ではなく、カリフォルニア州の都会に近づくまで痩せている人を見かけなかったです。もちろん私もこの旅でがっつり4kg増。写真の私、お尻がほぼラテン系になっておりますね。でもアメリカでは大きなお尻は良しとされるので、アメリカ的女子力はアップしたということですね。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
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