読書の秋│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#059

読書の秋

2016-09-22 16:22:00

 秋です!秋刀魚、栗、梨、柿、松茸、松茸、松茸!秋は、やっぱり食欲の秋!パンにはやっぱりネオソフト!(食べたことないけど)、と言いたいところですが、食欲は春も夏も冬も季節を問わず旺盛であります。歳を重ねて食べ物への執着が増してきているのは、きっと「あと何度美味しく食事を食べられるか」という人生の終焉へのカウントダウンを無意識にしているからではないかと思います。スポーツの秋に関しては、最近涼しくなってきたので朝のウォーキングを始めました。3、40分ほど歩いて、朝食をとって、眠くなって、二度寝して、起きたら昼!昼!昼ナンデス♪みたいな流れです。ということで、ここは作家らしく読書の秋について考えてみようと思います。

 私の家には本棚が一つあります。なんだか中学英語の教科書に載っている文章みたいですが、本棚が一つあります。大きなものではなく、幅60cm×高さ180cmというまあ、普通のサイズ。引っ越しをする時、ダンボール箱に詰めた荷物で一番多いのは本でした。でも、全てこの本棚に収まっています。「もう本棚に入らなくなっちゃった。新しい本棚買わなきゃ」といった声を聞くことがありますが、私はこの本棚以上の本を所有しないと決めています。本棚って、人となりが顕著に出るから面白い。人の本棚を覗くの大好き。そこに自分の好きな作家の本があったら、その人との距離がぐっと近くなるし、反対に苦手なカテゴリーばかりだと、この人とは合わないなと思う。『寝ているだけで1億円』『もし高校野球の女子マネージャーが1億円を拾ったら』『長生きしたけりゃふくらはぎをもんで1億円貯めろ』(全て仮題)といった、いかに金を稼ぐかの指南書ばかりが並んでいるのを見たら幻滅ですよ。漫画が並んだ本棚も苦手だなあ。スライドして後ろにも入るタイプの本棚に漫画がびっしりというのは、漫画が好きというよりも、全巻揃っていることに喜びをおぼえていそうな気がします。そんな本棚の中にも女子力というのがあって、私が見た中で一番女子力の高い本棚はニューハーフの友人のものでした。彼女の本棚には私が「世の中で誰がこんな本を買うの?」と常々思っているスタイルブックというやつがずらり。男性陣のために説明しますと、スタイルブックというのはモデル、タレント、スタイリスト等が「あたしってば、こんなおっしゃれーな生活してまーす!」という自慢を一冊にぎゅうぎゅうに詰め込んだ本なんですね。ぎゅうぎゅうだけど、読めば読むほど、すっからかん。興味本位で手にとってみると、読者からのQ&Aのページで「朝の出勤前、コーディネートがなかなか決まらない時はどうしたらいいですか?」という質問に「そんな時は、温かいカフェオレを持ってもう一度ベッドにGO!」と書いてありました。会社、どうすんだよ。私は「うけるー」と言いながらそれらを読んでいたのですが、持ち主であるニューハーフの友人に「女に産まれたのに、綺麗になろうとしないあんたを見てるとむかつく」と叱られました。彼女と台湾旅行に行った時、3泊4日なのにパンプスを5足も持ってきた彼女の女子力には脱帽です。そんな彼女の本棚とはうってかわって、私のには女子力の欠片もありません。今もふと目をやるとペーター・ハントケ著『幸せではないが、もういい』という絶望的なタイトルの小説が見えました。一番多いのはやはり小説ですが、先ほど書いたようにこの本棚に収まりきらないものは所有しないと決めているので、厳選に厳選を重ねています。そのわりには中学生の時に買った真木蔵人のセーターBOOKがあったりもする怪。ちなみにセーターBOOKというのは、その昔、男性アイドルや俳優の人気の証でありました。厳選された中には、いくつかのサイン本も含まれています。これまでサイン会に並んだ作家さんは吉田修一さん、阿部和重さん、小路幸也さん。サインをいただく、ご本人にお会いする、それも嬉しいのですが、私は好きな作家さんが自分の名前を書いてくれることに喜びを憶えます。『繭』って日常生活ではめったに書かない文字だから、それを皆さんが、左が糸で、右が虫、みたいに改めて文字を確認しながら書いてくれるのが嬉しい。阿部さんは私の名前を書きながら「以前、雑誌か何かで僕の本を紹介してくださいましたよね?」と言ってくださいました。もうわたくし、あまりの感激に脇汗がとまりませんでした。代謝の高さは女子力の証!写真は最近、父からもらった新刊『不運と思うな』なのですが、宛名が「バレリーナへ」になってるあたり、完全にバカにされておりますな。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
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