エチエンヌ│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Cast

西山繭子

#055

エチエンヌ

2016-07-21 12:09:00

 先日、友人が「ペットを連れている飼い主は世界中の人が全員、自分のペットを可愛いと思っているのがむかつく」と言っていた。彼女は幼い頃に野良犬に追いかけられたことがあり、それ以来、犬が苦手らしい。苦手というか「うち、犬、めっちゃ嫌いやねん」と言いきった。私は彼女の潔さに感心した。世の中、動物が好きな人は良い人で、嫌いな人は人でなし、といった風潮がある。そんな中での犬嫌いを公言するのは勇気がある行動と言えよう。じゃあ自分はどうかといえば、好きでも嫌いでもないというのが正直なところ。これまでに何かを飼った経験もない。動物を飼えるような物件に住んだことがないという理由もあるけれど、何しろ自分の世話さえできていないのに、ペットのお世話なんてとてもとても。ペットを飼うということは、かなりの女子力を要するのだと思うのです。

 この夏、4歳になる甥っ子と映画『ペット』を観に行く約束をしています。私は一足お先に試写会で見させていただいたのですが(EXILEみたいな言葉遣い!)、これがめちゃめちゃ面白い。試写会では、字幕版だったのでバナナマンの吹替え版もこれまた楽しみということで、すでに前売り券を購入済。ただ一つ心配があります。この映画を観たら、甥っ子、絶対にペットが欲しくなっちゃうよなーと思うのです。私には甥っ子が3人いて、8歳と2歳の子は、なかなかハンサムなのですが、4歳のこの子はどこでどうなったのか何故か一人だけブス子ちゃん。ブサイクではなく、ブス子ちゃん。しかも、それが私の小さい頃とうりふたつなんですよ。だから何だか可愛くて仕方がない。その子に「まーたん、ボク、わんちゃん欲しいなあ・・・」と言われたら、叔母さんは深夜の歌舞伎町のペットショップでキャバ嬢におねだりされる客よろしく、買っちゃうよね。わんちゃん、買っちゃうよね。その話を姉にしたところ「散歩させるの私になるから、絶対にやめてね!」と釘をさされました。男の子3人を育てるのに日々てんてこまいの姉、確かにそうだよね。姉は、この前もキッザニアに行きたいという子どもたちに「大人になったら嫌でも働かなきゃいけないんだから、子どもがそんなことしなくていい」と説き伏せていました。

 ペットを飼ったことがないので「犬派?猫派?」という質問も非常に困ります。「タカ派?ハト派?」の方がまだ会話が広がります。知人の家に行って犬や猫がいると、飼ったことがないので上手く触れ合えません。「苦手なの?」と訊かれるのですが、苦手ではなく、緊張するんですよね。だって、私からしたら彼らって目上の存在なんですよ。誰かに愛されてて、三食昼寝つきなんて選ばれし者たちなわけでしょ。以前、路地裏のお洒落な食料品店のウィンドウで美味しそうなクッキーを見かけて店に入ったら、犬用の店だったことがあります。そんな素敵なものを食べている彼らと対等に付き合うなんて、私には無理。目上の人(人じゃないけど)には気を遣うのが大人ってもんです。でも単純に、その造形を可愛いなあと思うことはあります。特に柴犬。数年前、ヨーロッパで柴犬がすごく流行っていて、ミラノのカフェでも隣に居合わせたマダムが可愛らしい柴犬を連れていました。ボトックス、ヒアルロン酸打ちまくりで顔が昨今のミッキー・ローク化したマダムと柴犬の組み合わせは何ともアンバランス。私がにこにこと柴犬を見ていると、マダムは「シバイヌ~、シバイヌ~」と酒やけした声で言いました。イタリアでもシバイヌなんだと感心していると「エチエ~ンヌ」とマダム。柴犬にエチエンヌ・・・。この日本的な顔にエチエンヌ・・・。エチエンヌは「俺が決めたんじゃないからな」とでも言いたげに、黒々とした目で私を見つめていました。

 犬猫と違って身近にいない動物にはけっこう興味があります。大学の卒業旅行は一人でケニアに行ったぐらいだし。卒業旅行なのに一人ということはおいといて、ケニアのサバンナで見る動物は本当に美しかったです。サファリドライブ中にドライバーのオボチャさんが「繭子、あそこにライオンの親子がいるぞ」と教えてくれて目を向けたのですが、私には何も見えず。しかし双眼鏡を覗くとそこにはライオンの親子の姿が!サンコンさんの視力6.0は嘘ではない。死ぬまでに野性のベンガル虎も見てみたいですね。ただ、聞いた話ですが、ジャングルでベンガル虎に遭遇した場合「あ!ベンガル虎だ!」と思った次の瞬間には殺されているらしいです。本当かよ。でも即死の場合、最期の瞬間が「あ!ベンガル虎だ!」の感動なのだから悪くない終焉かなとも思います。身近にいない動物では、パンダも大好きです。以前、上野動物公園のパンダの気をひくためにパンダに扮して行ったのですが、彼らは私を見て一瞬ビクッとしたものの、あとはガン無視でずっと笹を食べていました。ちなみにこの時はちょっといいなと思っている男の子と一緒に行ったんですけど、彼、これ以来会ってくれませんでした。パンダに嫉妬したのかな。全然わからない。

image2

最近のコラム

西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
西山繭子さんの新刊
【バンクーバーの朝日】
~フジテレビ開局55周年記念映画 公式ノベライズ~
戦前のカナダ・バンクーバーで生き抜く
青年たちの葛藤・奮闘・友情を描いた最高傑作!


バンクーバーの朝日
西山繭子
マガジンハウス文庫
320p 620円(税別)


オフィシャルサイト→FLaMme official website