コモエスタ赤坂│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#054

コモエスタ赤坂

2016-07-11 21:17:00

「あ!宿題忘れてた!」と38歳にもなって大慌て、磯野かつお状態の西山です。宿題はスペイン語で現在完了の例文を5つ作るというもの。職業柄、例文作成の際はちょいちょい小ネタを入れたくなります。それで先生や他の生徒が笑ってくれると嬉しい。しかしそのため文章が複雑になりすぎて、先生に添削されまくるというのが常。でも語学は貪欲にチャレンジすることが大切であります。スペイン語の勉強を始めてかれこれ6年。今、自分で数えて驚きました。6年勉強して、この程度かよと驚きました。毎朝NHKラジオのスペイン語講座を聞いているとはいえ、現在は月1回のレッスンだけなので、それでは上達するはずもなく、レベルは停滞中であります。そもそもスペイン語を勉強し始めた理由は「いつどこでダビド・シルバと出逢っても良いように」という何とも女子力の高いものでした。それを言うとみんな笑うのですが、6年前の私は本気で彼と結婚しようと思っていました。

 その時に通っていた学校は麹町にあるセルバンテス文化センター。スペイン政府によって設立された教育機関です。3時間の授業を週2回というわりかしハードなカリキュラムでしたが、ダビド・シルバに少しでも早く近づくために私は必死でした。マドリード出身の美女、ピラール先生はなかなかのスパルタで授業中の日本語は一切禁止。まず授業の初日にはそれぞれスペイン語の名前を決めました。これ、大学の第二外国語でスペイン語の授業をとった時もそうだったのですが、日本語の名前だと先生が覚えづらいんでしょうね。ちなみに大学時代はスペイン語に興味がなかったので、まったく勉強しませんでした。当時、太っちょのロメロ先生が私のテストを見て「マリア・ホセ(その時の私のスペイン語名)、この点数じゃ単位をあげられない。だから、みんなの前でマカレナを踊りなさい。そしたら単位をあげます」と言われ、クラスメイトの前でマカレナを踊ったという思い出。そんなマリア・ホセ、二度目のスペイン語名はシルバに響きが似たシルヴィアにすることにしました。名札にシルヴィアと書いてご満悦の私に、先生は「次に名字も決めて」と言いました。え…、名字も…。ということで、結局私は『シルヴィア・シルバ』という漫才コンビのような名前になってしまったのであります。この時に一緒に勉強したクラスメイトとは、今でも仲が良く、定期的に集まります。居酒屋で日本人のおじさんとおばさんが「マリア」「クリスティアーノ」「ダニエル」と呼び合っている様子は端から見たら奇妙でありましょう。彼らは私のことを最初「いつもビーサンで授業に来る人」という認識だったらしい。だって夏だったしねえ。ラテン系だしねえ。A1-1、A1-2(授業のレベル)を終え、A1-3の授業は、それまでの夜クラスではなく昼クラスを選択しました。平日の昼から授業に来られる人というのは限られます。主婦やフリーランス、はたまた私のような世捨て人。今度のクラスではどんな出逢いが待っているかなと、どきどきしながら「Hola!」と元気よく教室に入って行った私。新しいクラスメイトと顔を合わせた瞬間、戸惑いを隠せませんでした。何故なら私以外は全員ご年配。大丈夫か?ひとまず始めは自己紹介からスタート。それまでのクラスは学生、新聞記者、エンジニアと様々な職業の人がいて、そこから会話を繋げていくみたいな練習があったのですが、新しいクラスは私以外全員「jubilado(退職者)」で会話が広がらない。男女比は私を入れて女4:男3。この男性方がみなクセ者でありました。退職後に語学の勉強をされる人というのは、それまでの経歴がわりかし華やかで生活に余裕があるんですね。そのためなのか皆さん、すごくプライドが高かった。わからないことをわからないと言わない。質問しない。その中でも一際頑固なクラスメイト、トシは、サラ先生にスペイン語で話しかけられて「この女、何言ってるかわかんねえな」と日本語でぼやき、授業についていけなくなると腕を組んで目をつぶってしまう始末。もうね、スペイン語のデイホームですよ。ペアでの会話練習なんて、全然まじめにやってくれなくて、私は何度も「トシ!ちゃんとやって!(スペイン語で)」とキレました。クラスメイトだから70歳のじーさんも呼び捨て。授業の進みもゆっくりで、授業料を損した気分になりました。環境って大切だなあ。このクラスメイトたちとは一ヶ月の付き合いで、男子とは最後まで打ち解けることはありませんでしたが、女子とはよくランチに行き、みんなで男子の悪口を言っていました。女子っていくつになっても変わらない。ああ、またセルバンテスに通いたいなあ。授業料を払う余裕ができたらまた行こう。それまでは、家でひたすらお勉強。写真は私の教科書、スペイン語版『アラレちゃん』と『スペイン代表の秘密』です。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
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