あたしゃ神様だよ│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#051

あたしゃ神様だよ

2016-05-23 16:51:00

 先日、私のホームタウンであるロンドン(1度しか行ったことない)で新しい市長が誕生しました。彼の経歴を紹介した新聞記事を読んだところ『裕福ではない家庭に育ち、24歳まで二段ベッドで寝ていた』と書いてありました。私、30歳まで二段ベッドで寝ていましたけど・・・・・・。まあ確かに家庭における二段ベッドというのは、あくまでも子ども用といったイメージがあるので、大人になってまでそれに寝ているって確かに裕福ではないイメージですね。今は一人暮らしなので、広々快適なシングルベッドで夢とお前抱いてますが、先日のNYではシェアアパートに宿泊したので久々に二段ベッドで寝ました。加齢のせいか、昇降に時間がかかるようになりました。さて、その二段ベッド市長ことサディク・カーン氏ですが、二段ベッドよりも注目されているのは、彼がイスラム教徒であるということ。

 私の家から最寄り駅まで向かう道すがら、モスクのミナレットが天高くのびているのが見えます。日本最大のモスクである東京ジャーミイ、これが建てられたのは2000年で、井の頭通り沿いに突如現れた異国情緒漂う建造物を、当初私は何とも不思議な気持ちで見ておりました。その翌年、アメリカで凄惨な同時多発テロが起きました。そのせいでイスラム教が悪であるかのような間違った風が世界に流れ、それは今でも拭いきれていないように感じます。私は無宗教なので、宗教に対して寛容でもあるし、懐疑的でもあります。今から10年以上前『ウルルン滞在記』の仕事でモロッコの敬虔なイスラム教の家庭に1週間滞在しました。ある夜、居間で家長であるお父さんがコーランを私に見せて「アッラー・アクバル」という言葉を促がしました。その時、居間にはベルベル語を勉強しに来ているアメリカ人の女の子もいたのですが、お父さんはその子にも「アッラー・アクバル」と促がしました。彼女は頑なに拒否。お父さんが去った後、彼女が「あなたイスラム教徒じゃないでしょ?どうして言ったの?信じられない」と私を非難しました。それに対して「私は何の宗教も信じてない。アッラー・アクバルと言ったところで、私に信仰心がなければ、それはただの音でしかない」と答えると、彼女は「じゃあ何を信じてるの?」と怪訝な顔。私が「自分」と言いきると、さらに怪訝な顔。彼女とは、打ち解けることなく別れました。1週間の滞在で、その家族にはたくさん親切にしてもらったけど、腹が立つこともありました。特に、女性が自由ではないことに対しては納得できなかった。そうすることによって女性を守っているという見方もあるけれど、教育しかり結婚しかり、いつか多くの女性に権利が与えられる日がくると良いなと願っています。だって、そしたら世界は女子力でもっと素敵になるはず。その女子力という観点でみると「クリスチャンの子って優しそう」みたいなイメージがありますが、私は以前、敬虔なクリスチャンの女性にすごく意地悪をされたことがあるので、結局は人によるのだなあと思います。

以前フィリピンに行った時のことです。マニラのタクシーにはクーポンタクシー、ホテルタクシー、イエロータクシー、レギュラータクシーという4種類があります。それぞれ順番に「たぶん大丈夫」「もしかしたら大丈夫」「たぶんヤバイ」「ヤバイ」で、値段も順々に安くなっていきます。帰路、ホテルから空港へ向かう時にベルボーイが呼んでくれたタクシーは「もしかしたら大丈夫」のホテルタクシーでした。まあホテルが呼んでくれたんだし、大丈夫かなと乗り込みましたが、支払い時にずいぶんとぼったくりな値段を請求されました。私が抗議すると、運転手は「金を払え!」と目を血走らせながら怒鳴ります。マニラって銃社会だし、日本円にして数百円の金を惜しんだがために何かあってもなあと、悔しかったけれど請求された金額を払いました。紙幣を渡しながら、私は彼の目を見て「お前、この先一つもいいことないからな。今日、帰ったらお前の家燃えてるからな」と日本語で言いました。その彼のタクシーのバックミラーには十字架が下げられ、フロントガラスの端にはマリア様の絵が貼ってありました。「神様、どうか警察に捕まりませんように!」とでも祈っているのか? 神様はそんなこときいてくれないよ!ちなみに、このマニラはニューキッズオンザブロックのコンサートを見るために行きました。

また、近所にはモスクだけでなく教会もあります。少し前に、ふらりと日曜礼拝にお邪魔したのですが、皆様ものすごく親切で、初めて訪れた私にたくさん声をかけてくれました。「ご近所なの?」「学生さん?」「青年会に入らない?」、小説の取材のために足を運んだ邪念だらけの私は何だか申し訳ない気持ちになって、その後、顔を出していません。正直、ぐいぐい誘われたのも怖かった。私が繊細な人間だったら、言葉は悪いけど、あっという間に取り込まれていたように思います。しかし、礼拝中にお借りした聖書には、わりかし物騒なことが書いてあって面白かったです。この先も私が信じるのは自分。70歳までに女子力がマックスになる自分を信じて進んでいくのみであります。

image2

最近のコラム

西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
西山繭子さんの新刊
【バンクーバーの朝日】
~フジテレビ開局55周年記念映画 公式ノベライズ~
戦前のカナダ・バンクーバーで生き抜く
青年たちの葛藤・奮闘・友情を描いた最高傑作!


バンクーバーの朝日
西山繭子
マガジンハウス文庫
320p 620円(税別)


オフィシャルサイト→FLaMme official website