若いって美しい│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#047

若いって美しい

2016-03-18 11:50:00

 そろそろ春の香りが漂ってきましたね。来月バレエの舞台があるので、最近は週4で練習しています。そのスタジオまでは自転車で通っているのですが、片道20分の道のりは電動自転車ですいすいなので、体力的には問題ありません。しかし夜はまだまだ寒い!耳あては必須アイテム。バレエのシニヨンを結っているのでニット帽ではなく、耳あてです。ラビットファーのふわふわしたやつで女子力高め。そして普段はしないマスクで顔の半分を防護します。この季節、花粉症もありますが、日本人のマスク着用率って異常ですよね。以前、カフェで隣り合わせたアメリカ人観光客に「日本って何でみんなマスクしてるの?アレルギーなの?」と訊かれました。私はつたない英語で「アレルギーもあるし、風邪の予防のためにする人もいるけど、マスク依存症の人も多い」と答えたところ、大層興味を持っていました。容姿のコンプレックスどころか、心のウィークポイントまでをもマスクが隠してくれる錯覚。女性の場合「マスクをしているとすっぴんでもいいから楽!」と言う人がいますが、ダメ、ダメ!「楽」と「女子力」はものすごく離れた場所にいます。楽をすればするほど女子力は遠のいていきます。長年楽しかしていない私が言うのだから間違いない。そのアメリカ人観光客の「あなたはマスクをしないの?」という質問に「しないわ。だって美人は顔を出さなきゃね」とアメリカンジョークっぽく答えたのですが、いまいちニュアンスが伝わっていなくて、彼女は慈愛に満ちた目で私を見つめ「良い一日を」と去って行きました。サンクス、ゴッド。しかし美人も寒さには勝てず、自転車に乗る時はマスク着用。そして手にはアラスカに行く時に購入したゴアテックスの手袋をしています。ミトンタイプで色は真っ白。何だかパン屋の工房から出てきた人がそのまま自転車に乗っているみたいな感じがあります。結果、女子力が高いのは耳だけですね。

 そうして寒さから身を守って向かうスタジオ、大人クラスは夜8時から練習が始まります。この4月に出る舞台も今年で三度目になりました。いくつかのスタジオが集まって1曲ずつ踊る合同プチ発表会といった感じ。やる演目は先生が決めるのですが、二月の終わりに先生が「今年は皆さんには妖怪を演じていただきます!」と言いだし、一同きょとん。わけがわからぬまま配役が発表になり「西山さんはルルコシンプです!」と聞いたこともない妖怪の名前を出され、他の子も「シタカラゴンボコ」「オボノヤス」という得体の知れない役があてがわれていきました。へえ、妖怪って奥深いなあと思っていたところ「Aちゃんの役は座敷童子です!」となり、「私だけ普通じゃない?」とAちゃんがぽつり。「妖怪に普通も何もないよね」「あはは、そうだねー」と和気藹々。バレエスタジオはいつも和やかであります。でも妖怪を演じてどうするんだろうと思っていたところ「皆さんが演じる邪悪できったない妖怪たちを、陰陽師演じる美しいTくんが倒すというストーリーです!」と先生。いやいや先生、みんな結構なおばさんだけどさ、きったないって言わないでよ。ちなみにTくんはコンクールクラスの生徒さんで、くるくる回るわ華麗に飛ぶわ、本当に美しいのです。昨年、スタジオのクリスマス会の時に、いつも大人クラスで一緒に踊っているNちゃんがTくんと一緒に『くるみ割り人形』のアラビアの踊りを披露したのですが、それが本当に素敵で素敵でジェラシー!二人が踊り終わったあと、私はTくんにつかつかと歩み寄り「ねえ!来年は私と踊ってよ!」と鼻息荒く言いました。彼は怯えながら「あ、あ、はい」と答えました。わーい、ルンルン。何踊ろうかなー。でも、私はその時Tくんのことを高校生だと思っていたのですが、聞いたら中2だって言うもんだからびっくり。24歳下。息子じゃん。一緒に踊ったNちゃんに「本当に中2なの?見えないよね」と言うと、「だよねー。こうやってペアで踊るのも初めてだったらしくてさ。私、Tくんの初めての女になっちゃった」とわけのわからないことを言っていました。そんな可哀想なTくんが今回一緒に踊ってくれるわけですが、その中で彼と私が組む振り付けが少しだけあるのです。初めての練習の時、Tくんの身体に触れてびっくり!中2なんて、子どもだしねと思っていたのですが、手を回したTくんの肩も背中も、普通に男なわけですよ。しかも無駄な肉が一切ない鋼のような身体は、若さも兼ね備えていて、それはもう素晴らしいの一言。男はとかく若い女が好きですが、こっちだって一緒だわ!じじいなんて願い下げだ、こんちくしょう!(完全に女子力消滅)そんな大興奮の私ですが、本番までに少しでも体重を落とそうと目下ダイエット中であります。年齢で迷惑をかけている分、せめて体重だけでもさ。でもね、女子力がある子だったらひっそりと痩せると思うのですが、私は先日の練習で「本番までに激ヤセするから大丈夫」とTくんに宣言。Tくん、苦笑いしておりました。このおばさん、女子力ねえなって思ってるんだろうなー。でもTくんは、そんなことおくびにも出さず、写真のように重たい私を持ち上げてくれるのです。ああ、いい子!こんな息子が欲しかった!

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
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