ゆーわくFile.3 ワケが有りそで無さそな店先の置物│中島さなえの「四方八方ゆーわくぶつ」

中島さなえの「四方八方ゆーわくぶつ」

Writer

中島さなえ

#003

ゆーわくFile.3 ワケが有りそで無さそな店先の置物

2015-08-28 13:44:00

 前回店構えの話で置物について触れたが、置物というものはかなり危険で、もっとも足止めをくらう“ど引力”がある物のひとつだ。
 街にある店の前にはよく、ケンタッキーのカーネル・サンダース、不二家のペコちゃんなど、その店の顔であるキャラクターの置物がおかれている。しかし時には「ん、これはいったいなんのために?」という不思議な置物が鎮座しているからやっかいきわまりない。薬局の前になぜか浮き輪をつけたコックさんの人形があったり、床屋の前に巨大キューピーちゃん人形が飾ってあったり。まったく関係ないやないかと目を疑うが、店長さんと話をすると得てしてみな、「見た目がちょっと寂しいかなと思って……」と口を揃える。理由なんてきっとない。たいていない。しかし、もしかしたら中には重要なメッセージが隠されているものもあるかもしれない! と、一縷の望みをかけて置物へと近づいてしまう。

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 たとえば都内某所の居酒屋の店先にあったこれ。見ての通りうっすら微笑んでいる和服を着た女性の人形だが、提灯の照明効果もあってかなり不気味ゆえ、客寄せ効果があるのか疑わしい。台に書かれている注意書きには「危険!人形に触らないで!」とそれらしいことも書いてある。
 そしてこの人形の顔の巨大さを見ていてふと、アニメ「サザエさん」に対して抱いたある疑問を思い出してしまった。タラちゃんもカツオもみな、顔が異様に巨大な割に首が激細だが、Tシャツやセーターなど頭かかぶるものはどうやって脱ぎ着しているのかということだ。わたしは画面に目をこらした。毎週、毎週、しつこく見た。するとついにタラちゃんがTシャツを脱ぐシーンが! タラちゃんがTシャツを顔の上に引き上げるにつれ、Tシャツの首回りはスルスルと広がってなんなく顔周りを通過していった。タラちゃんも脱衣を手伝うサザエも、まるでこれが「自然なことですよ」とでも言っているようにシレっとしていた。
 といったことを思い出しているのも時間の浪費!

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 酔っ払いにでも倒されたのか、こんな悲惨な状態になってしまったグレイ人形。見るからに痛々しいがこんな応急処置で引き続き店先に置かれるとは。早く直してあげてほしい。

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 伊豆のリサイクルショップ「アニマル邸江戸屋」の巨大ゴリラ。圧倒的な存在感を放っている。かつては動物の剥製を展示販売していた店の名残と言うことらしい。
 熱海の秘宝館を筆頭に「怪しい少年少女博物館」や「まぼろし博覧会」といった怪しくコアなスポットが入り交じってカオス状態になっている場所なので、もはやなにがあっても驚かない。

 これからもわたしたちの足をとめてやまない置物たち。「考えるな、感じろ!」の精神が貫かれていて(感じることすらできないかもしれないが)、これらに少しでも意味を見いだそうとすると漏れなくモヤモヤしてしまうという危険なゆーわく物だ。

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中島さなえさんINFORMATION

作家。1978年、兵庫県宝塚市に作家・中島らもの長女として生まれる。2009年エッセイ集『かんぼつちゃんのきおく』、2010年初小説『いちにち8ミリの。』でデビュー。他に小説『ルシッド・ドリーム』『放課後にシスター』、エッセイ集『お変わり、もういっぱい!』がある。サックスプレイヤーとしてバンド活動もしている。
双葉社より小説最新刊『わるいうさぎ』発売中!

9月6日(日)文化放送 午前6時20分〜7時「志の輔ラジオ 落語DEデート」出演予定

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