誕生日なんて大嫌い│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#019

誕生日なんて大嫌い

2015-01-26 09:04:00

 これを書いている今日は私の37歳の誕生日です。今はお昼前、窓の外にはみぞれ混じりの雨が降っており、たぶんというか絶対に外に一歩も出ない日となるでしょう。昨日は事務所の女子スタッフとランチをしていたのですが「明日、どうするの?」と訊かれ「え?何もないから家にいると思う」と答えると、たいそう驚かれました。だからイヤなんだよなー。実は私、一年で一番嫌いな日が1月21日、自分の誕生日なのであります。自分の誕生日が嫌いなんて、女子力というか人間的にダメな感じがしますね。でも本当に嫌いなのです。子どもの頃からずっと。

 その昔、お誕生日会は子どもにとって一年で一番のビッグイベントでした。友だちを家に呼んで、わいわい楽しんで、プレゼントをもらって、お返しをあげて、その日は誕生日の自分が主役。それだけでも夢のようなひと時、でもそれよりもさらに上をいく勝者もいました。それは、マクドナルドでお誕生日会を開く人。私も一度だけ招待されたことがあります。もう顔も名前も忘れちゃった同級生。当時、小学校1年生だった私は、めったに母親が連れて行ってくれないマクドナルドという店は超高級店なのだと思っていました。その高級店で子どもの誕生日会をやるなんて、今でいったらパリス・ヒルトンみたい印象ですよ。「××ちゃん、お誕生日おめでとう~」と手を叩くマクドナルドのお兄さんとお姉さんは私の目には完全に召使に見えたし、途中でやって来たドナルドは、私からしたら「××ちゃんの誕生日に芸能人が来た!」という衝撃。当時のスーパースターである志村けんさんともはや変わらないレベルでした。そこまでの勝者になれないまでも、一度だけ母に頼みこんで家でお誕生日会を開いてもらったことがあります。今考えると、子どもの誕生日会といってもお金がかかるのですよね。食事を用意して、ケーキを買って、お返しのプレゼントを準備して。私の家は平均的な母子家庭だったので、裕福ではありませんでした。誕生日前に母と一緒に世田谷ボロ市に行ったのですが、母はそこでお返し用のプレゼントを買いました。他の友だちの家では自分があげたプレゼントよりも立派なサンリオのグッズをお返しで貰ったりしていたのだけど、我が家はボロ市で買った激安の文房具。もうその時点で、母には申し訳ないけれど誕生日なんて来なければいいと思いました。そして誕生日会当日、初めての主役という立場に緊張した私は、誕生日の最中に突然の中耳炎に襲われダウン。みんながわいわいと遊んでいる中、一人炬燵で横になっているというまさかの誕生日会。誕生日なんて大嫌い、それから30年。今でもやっぱり苦手なんです。

 ここ最近では、誕生日会は子どもだけのものではありません。特に芸能人のブログでは、もう365日誰かの誕生日会が開催されていますね。たくさんの人が集まっていて、豪華なプレゼントをもらって、本当に華やか。私も行ったことありますけど、友だちである元グラビアアイドルの誕生日会は、毎年数回あります。誕生月はほぼ毎夜、誕生日会なわけです。数年前に行った時は、彼女の生まれ年(私と同世代)に作られた五大シャトーのワインを全て一つのボールに入れて吞むという余興がありました。美味しいマルゴーもラフィットも、お金を持った成金ベンチャー企業家の手に渡れば自分の力を誇示するための、ただの赤い液体でしかありません。誕生日というイベントに憎悪さえ抱いた瞬間。もちろん、そんなにたくさんの人に祝ってもらえるのは羨ましいと思います。献上されたプレゼントに「わー、超かわいい!」って、しかもそれバスソルトだけど、それでも感嘆詞は「超かわいい!」みたいな女子力を振りまきたい!しかし、私は人望もないし中耳炎になっちゃうから、やはり誕生日会はパス。

 なので昨年は一人でアラスカの山奥におりました。入国審査で係員のおじさんの質問に「一人だよー、観光だよー、オーロラ見るんだよー、ぐふふ」と答える私に「ふーん」とおじさん。しかし次の瞬間、パスポートに記載された私の生年月日に彼は目を丸くしました。「おい!誕生日を一人でアラスカで過ごすのか!?」、おじさん目をパチパチ。私がむすっと「そうだよ」と答えると「恋人は?友だちは?」と突っ込んできました。私は両手を大きく開き、メリル・ストリープばりの悲壮感を出して「Nobody like me」と答えました。おじさんは私の目を真っ直ぐに見て「No…That’s not so」とデ・ニーロのように眉を下げて静かに首をふりました。ああ、やっぱり誕生日って大嫌い!面倒くさい!ということで、今年はどこにも行かずに原稿。人と関わらなければ、誕生日は普通の日として過ぎ去って行く。24時間の辛抱。それでも、朝一番に事務所から届いたお花は嬉しかったりもするんだな。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
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